Q1 がん治療における免疫療法の位置づけをどう考えますか?
A1 当院では、がん免疫療法の役割を次のように位置づけています。
- 手術後の再発予防の目的で行う。
- 進行・再発がんに対し、他の標準的治療(化学療法や放射線治療)との併用をタイミングを図りつつ行う。
- 標準治療の選択肢がない場合、あるいは行わない場合の代替医療として行う。
- 免疫チェックポイント阻害剤や未承認薬の使用は、進行がんに対しての最終治療手段として行うが、重篤な副作用に対処できる救急医療機関と連携して行う。
Q2 免疫細胞療法は誰でも受けられますか?
A2 次のような方は受けられません。
- 現在急性の感染症にかかっている方
- 現在重篤な自己免疫疾患のある方
- 肺(呼吸)や肝臓・腎臓の機能が極端に低下している方
- 成人型T細胞白血病のウイルス検査で陽性の場合(ただし、樹状細胞ワクチンは可能です)活性化自己リンパ球療法は受けられません。
Q3 免疫細胞療法を受けるには何が必要ですか?
A3
まず採血をして治療材料である白血球を分離して保存することが必要です。
採血の方法には長期治療用の白血球を一括採取して保存するアフェレーシス(成分採血)と、治療の都度採血をする方法の二通りがあります。アフェレーシスが可能な場合は複数の種類の免疫細胞療法が可能ですが、極度の貧血のある方や体重が40kg以下の方の場合にはアフェレーシスができないこともあり、その場合には治療都度の採血(30ml)で活性化自己リンパ球療法を行うことになります。
手術前の方は、手術で摘出される新鮮組織を当院で凍結保存しておくと、樹状細胞を用いた細胞療法の治療材料そのものとして、また、より有効な細胞治療や薬剤療法を策定するための遺伝子情報を得るための検査用として大変役に立つので是非ご相談ください。
Q4 痛みを伴う施術がありますか?
A4
当院では院長はじめ、看護や事務スタッフにいたるまで、患者さんに精神的、肉体的な苦痛を与えないことを大切に、リラックスできる環境を整えて安心して診療を受けていただけるように心がけております。
例えば、穿刺の際に少しの痛みにも敏感な方には、穿刺場所にあらかじめ鎮痛用のパッチを貼っていただくなど細やかな配慮をしております。
Q5 免疫細胞療法の副作用はありませんか?
A5
当院では培養した細胞の安全性と品質の管理を十分に行っているので、副作用の心配はありません。
軽度の発熱、炎症の増幅、自己免疫などは理論的に起こりうる副作用ですが、自己免疫疾患の誘導が最も危惧されていた自己腫瘍蛋白刺激樹状ワクチンでもほとんどみられていません。細胞の調整や品質の検査が適切になされ(フローサイトメトリーで行う)、安全性の検査(細菌やウイルスの汚染の有無を試薬を使って精査)が適切に行われていれば、39〜40℃の高熱は起こりえません。
高熱が出ることが強力な免疫反応の証と謳う医療業者がありますが、真実ではありません。
Q6 治療の期間はどれくらいかかりますか?
A6
患者さんの御病状やがんの種類によって、治療期間は異なります。再発予防の場合と標準治療がすべて効かなくなってきている場合でも、治療期間や頻度は全く異なります。
初診では先ず、患者さんの病状や体力に応じて、向こう3ヶ月〜半年の計画を大まかに提示し、治療をスタートしたら2~3ヶ月ごとに効果を判定して計画の見直しを行います。6回1クールなどと設定し、通り一遍の同じ内容の治療を繰り返すわけではありません。
免疫細胞療法の場合、治療開始から3か月間は治療の間隔は約2~3週間が基本です。3か月間ほどの治療後にCTなどの画像検査や超音波検査、腫瘍マーカーなどで効果の評価を行います。
効果が認められ、免疫細胞療法を継続することになった場合は6回施行後は1年間ほど、月に一度くらいの頻度で継続するのが望ましいのですが、これは患者さんの病状を診ながら次第に間隔を空けていくことももちろん可能です。
Q7 費用はいくらくらいですか?
A7
治療の内容で多少異なります。一回の治療費は税込み¥148,500~165,000です。腫瘍組織の遺伝子変異を解析し、ご自分の癌細胞が特異的に産生しているたんぱく(ネオ抗原ペプチド)を合成して刺激材料とする樹状細胞ワクチンなどの精密に個別化された免疫細胞療法を使う場合、前準備として遺伝子解析料やペプチド合成に係る費用が別途必要になります。これについては患者さん毎に費用が違うので個別に院長が説明します。
この他に、準備として免疫細胞の一括採取(成分採血)時に、ディープフリーザーでの長期保存料を含め税込み¥287,000ほどが必要ですが、とりあえず数回の短期治療を希望される場合は成分採血を行わず、治療の都度の採血も可能です(都度の採血料は税込み¥22,000)。
Q8 他の治療法(抗がん剤や放射線治療)と免疫療法の併用は可能ですか?
A8
「抗がん剤は免疫を下げるので免疫療法とは逆行する」と、医師でさえ勘違いされている方が多くいますが、むしろ抗がん剤が、がん免疫反応を助ける場合もあること、抗がん剤単独より免疫療法を併用した方が治療成績が良かったとの臨床試験の報告が多くあります。
確かに抗がん剤を長く使っていると、免疫の元になる白血球が少なくなることはありますが、抗がん剤でまず打撃を受けるのは白血球のうち、菌やウイルスを食べる好中球で、がん免疫反応の主役であるTリンパ球ではありません。
免疫細胞療法は放射線治療の期間中には行いませんが、活性化自己リンパ球療法は放射線終了後の白血球が極端に減少した時期に集中的に行うと効果が上がるようです。放射線を脳に照射する場合は併用しても問題ありません。放射線治療開始前にリンパ球を採取し凍結保存しておくことをおすすめします。
但し当然ながら、併用する際には使用する薬剤によっては患者さんの体調の変化も大きいので、タイミングを見極めて行う細心の注意が必要です。
Q9 培養した免疫細胞を別の施設へ運んで投与することはできますか?
A9
培養施設と投与施設は同じ施設であることが原則です。
当院で培養した活性化リンパ球は、数、細胞の生存率、機能(通常は細胞表面抗原)などの品質と安全性(マイコプラズマやβグルカンなどの汚染の有無を調べる)を前日検査しておき、投与当日は患者さんの来院時刻に合わせて培養液から分離する最終処理をします。
細胞の回収後は、機能を維持するためにできるだけ早く患者さんに投与することが大事です。培養施設と投与施設が異なる場合、リンパ球の回収から投与するまでの時間が空いてしまうため、品質が著しく損なわれてしまうのが問題です。
投与できる状態で回収されたリンパ球は低温で保存しておいても時間と共にその生存率や機能は低下し、当院でのデータでは3時間を超えると、活性化自己リンパ球のがん細胞傷害活性が低下してくることがわかっています。
つまり治療効果が保証できないばかりか、死滅した細胞が多くなり高熱の原因になったりもするため、運搬に数時間以上を要するような他施設へ持ち運ぶことは勧められません。
Q10 活性化自己リンパ球療法の効果を示す証拠は?
A10
国外では欧米諸国で現在数多くの活性化リンパ球療法の臨床試験が行われており、がんの手術後の再発予防における単独での効果や化学療法との併用療法での効果などについての臨床試験の結果が数多く報告されています。
日本では千葉県立がんセンターの木村医師らが、肺癌術後における化学療法単独治療と樹状細胞ワクチン+活性化リンパ球療法の化学療法との併用療法についての臨床比較試験結果を報告(2015年)しており、樹状細胞ワクチン+活性化リンパ球療法の化学療法との併用群の5年生存率が、化学療法のみの群に比較して統計的に高いことを報告しています。
元々、活性化リンパ球療法を世界で最初に報告したのは米国がん研究所所長のロゼンバーグ博士です(1985年)。それから30年を経た現在では、世界中で臨床応用が進んできており、日本の厚生省が活性化自己リンパ球のがん性腹水への注入療法が高度先進医療として認められて(1996年)以来、がんセンターや大学などにおいて先進医療Aとして混合診療や臨床試験として行われており、民間医療施設においては、再生医療等安全確保法(2014年11月施行)の下で第三種再生医療として自由診療として施行されています。
Q11 活性化NK細胞療法の効果を示す証拠は?
A11
これまでドイツ(リーゲンスバーグ大学病院)、米国(米国国立癌研究所病院)、日本(京都府立医科大学)での自己活性化NK細胞療法の臨床試験が行われ、論文報告がされていますが、残念ながらがんの縮小効果を認めたとの報告はありません。
NK細胞は、MHCクラスIという目印が少なくなった特殊ながん細胞に対して攻撃できる細胞ですが、そうした特殊ながん細胞は数としてごく少数なので、投与する活性化された免疫細胞の総数の1割程(当院の活性化リンパ球療法の場合は1~3割がNK細胞)も含まれていれば、十分だろうと思います。
NK活性を測定する方法があって、K562という弱いがん細胞を使っての試験管内での活性化NK細胞の細胞傷害率を測定した値がありますが、それと患者さんのがん細胞を攻撃する能力とは無関係です。
Q12 ペプチドワクチンとペプチド樹状細胞ワクチンの違いは?
A12
ペプチドワクチンに用いるペプチドは、がんの抗原(Tリンパ球は、がん細胞の表面にあるペプチドに結合できるアンテナを持っている)と考えられるペプチド(アミノ酸として9〜15個)です。これを人工的に合成し、免疫アジュバントと伴に皮内に注射し、がん抗原を認識攻撃できるTリンパ球(CTL)を誘導しようとするものです。
現在、ペプチドワクチンとして使用されているペプチドのほとんどは、がん精巣抗原やがん細胞に特に多く発現している過剰発現抗原と言われるものです。
皮内に注射されたペプチドが、リンパ節内でがん抗原を認識攻撃できるTリンパ球(CTL)を誘導できる可能性は極めて低く、この注射には純粋にペプチドだけでなく炎症反応を誘因するアジュバント物質が混ぜてあるため、赤くて硬い注射跡が残ります。
これに対して、CTLを確実に体内に誘導することのできるのがペプチド樹状細胞ワクチンです。完全無菌室と特別な培養技術が必要で、クリーンルーム(完全無菌室)にて患者さんから採取した単球から樹状細胞を培養し、そこへペプチドを加えてペプチド樹状細胞ワクチンを作成します。
これをより効果を確実にするために当院では皮内ではなく鼠径部のリンパ節に直接入れる方法をとっています。
Q13 樹状細胞ワクチン療法の臨床効果を示す証拠は?
A13
現在行われている樹状細胞ワクチン療法は、1994年、末梢血からGM-CSFとIL-4を用いた樹状細胞様細胞の誘導法から急速に実用化が始まりました。ヒトがんでの最初の樹状細胞ワクチンの臨床試験の報告から20年以上が経過した現在も世界中で臨床試験が行われています。(詳しくは著書「これで分かる!免疫の真実」第5章をご覧ください。)
米国では前立腺がんでの治療法としてGM-CSFに前立腺がん蛋白を結合させた蛋白質で誘導した樹状細胞ワクチン療法が、ホルモン治療抵抗性の前立腺がん患者生存期間を延ばすことが明らかになり、2010年に米国FDAの認可を受けています。
当院では現在、樹状細胞の刺激材料として①患者さんの新鮮がん組織から抽出した蛋白、②患者さんの新鮮がん組織の遺伝子検査でネオ抗原(14で説明)を解析して人工合成したペプチド、③患者さんのがん組織標本や血液を検査することで選択する既成のがん抗原ペプチド、の3つの方法で樹状細胞ワクチンを作成していますが、今後は特に②に力を入れていく方針です。
Q14 ネオ抗原とは?
A14
キラーTリンパ球は、がん細胞表面のMHC上に提示されたペプチド(9個のアミノ酸で構成される)を認識するアンテナ(T細胞受容体と呼ぶ)を持っています。がん細胞の提示するペプチドの異物性が高い(正常細胞には発現していないことを意味する)ものを強力に認識して破壊するのがCTLと呼ばれる特殊なキラーTリンパ球です。
遺伝子変異の結果がん細胞表面に新たに出現したペプチドは当然異物性が高く、もともと正常細胞にはなかったものが新たに出現したという意味から、新生(ネオ)抗原と呼ばれます。
Q15 最新の免疫療法とは?受けることができますか?
A15
「がん」も「免疫」も、まだまだ解明されていない部分の多い研究領域です。
免疫細胞療法は単独療法での治療実績が未だ少ない療法ではありますが、がん治療は今、免疫のしくみに着目した研究が急ピッチで進んでおり、比較的安価になってきた遺伝子解析に基づいた、患者さんのがん細胞だけをターゲットにして攻撃する細胞療法が可能な時代に入ってきました。
当院では日々発信される英語論文に目を通し、がん治療分野の新発見にアンテナをはりつつ、当施設内の研究室で患者さんのがん細胞を用いての実験や研究を行いながら、より効果の期待できる新しい細胞治療の工夫に努めております。
今後期待されるところが大変大きい細胞療法として樹状細胞ワクチン療法がありますが、この樹状細胞ワクチンの作成段階でネオ抗原ペプチドを用いる方法は特に注目されるところです。当院では2017年10月よりこの新しい樹状細胞ワクチン療法への実際的な取り組みを始めました。
Q16 再発予防に対する免疫療法の効果を示す証拠は?
A16 我が国からの臨床試験としては下記の報告があります。
- 肝細胞がん術後再発予防効果(国立がんセンター)
- 胆管がん術後再発予防効果(東京女子医大)
- 肺がん術後再発予防効果(千葉県立がんセンター)
海外からも大腸がん術後、胃がん術後、腎細胞がん術後の再発予防効果が論文として報告されています。
Q17 どの施設のどの免疫療法を選べばいいのか分かりません…
A17
まずは、がん免疫療法についてある程度の知識を得てください。その上で、患者さんが免疫療法を行う意味を正しく理解して頂きたいと思います。
免疫療法には、臨床試験ではない、単なる試験管内でのデータをあたかも臨床での効果であるかのように高めの奏効率を誇示し、法外な治療費を取る悪質なケースもあります。また免疫はおろか、がん治療の専門知識もないのに単なる営利目的で、細胞培養を専門とする企業の傘下で免疫療法を施行している施設もありますので注意が必要です。
現在、がん免疫細胞療法は、2014年11月に施行された再生医療等安全確保法の第三種再生医療として行われていますが、この法令の遵守は免疫細胞療法を行う施設としては必要条件であり十分条件ではありません。
当院では、九州厚生局に届け出をした細胞培養の施設を備え、細胞培養の段階から実際の投与までを一貫して院長が責任もって行いますが、細胞の安全管理・品質管理は固より、患者さん一人一人に対し、より新しくより良い治療法を提供できるよう、診療の傍ら研究にも力を入れています。尚、がん免疫やがん治療一般について院長が執筆した書籍がありますので参考にされてください。
Q18 主治医が免疫療法の併用に批判的なのですが…
A18
がん拠点病院のがん治療専門の医師の中には、標準治療のガイドラインにないとの理由だけで 免疫細胞療法を治療法の選択肢として認めようとしない人がいます。
また、免疫療法のエビデンス(第三相臨床比較試験)が少ないのに高額な治療費をとるのは悪質であるとの意見もあります。実際、悪質な医療施設がありますから注意することは必要なことです。
しかし、がん治療を専門として研究と臨床に取り組む医師としての立場から言わせてもらえば、「エビデンスがあり、学会お墨付きの教科書通りの標準治療しか許されない」のであれば、医師にはなんの工夫も知恵も必要ないということになります。標準治療だけで満足できなかった人たち、標準治療に見放された人たちを救いたいと、がん治療にかける医師なら当然思います。
安全性のほぼ確立されている免疫細胞療法を、標準治療のみで救いきれないがん患者さん達に対して治療手段の一つとして加えることは頭から否定されるものではないと思います。
Q19 免疫療法を希望する時、主治医にはどう話したらいいですか?
A19
現在、がん拠点病院等で標準的治療を受けておられる場合には、当院での免疫細胞療法を併用したい旨を伝えて下さい(ご希望があれば当院のパンフレットを郵送しますので、それを主治医に提示してください)。その上で、「診療情報提供書」を書いていただくようお願いして下さい。
もし断られた場合には、まずは当院を受診していただき、こちらから主治医宛ての病診連携のお願いを書くこともできます。